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星雲と半風子 

本の感想とか書きます。 a louse in a nebula

『勇者ヴォグ・ランバ(1)』(庄司 創/アフタヌーンKC) ネタバレあり

勇者ヴォグ・ランバ(1) (アフタヌーンKC)

勇者ヴォグ・ランバ(1) (アフタヌーンKC)

自由意志をシステムに委ねた「ペインフリー」が施行されることになった世界。軍人であるヴォグは、テロリストとなったかつての恋人ガアタに再会する。ガアタはペインフリーに反対する「覚醒派」。妹のキーハと共に機密物質を強奪したという。ヴォグは一師団を率いてガアタを追いつめようとするが、ガアタは圧倒的な力を持っていて……

 

これが一話の半分までのあらすじ。

 

※以下、ネタバレあります

 

 

この世界は、一見ネットなどのインフラが発達している近未来(いまの現代社会と地続きの社会)に見えるが、細かいところでいまの現代社会とは大きく異なる。戦車は馬が引いているし、運動を演算で物理的に実現できる「発現」(魔法科学のようなもの)が存在し、その発現力を鍛えすぎると変化してしまう「半竜」という異形(ガアタの妹のキーハ)がある。「這脳」という水中でも生活できるまんま脳みそな外見の人工知能、クローン人間など、SF好きならうおおお! と思わず熱くなる仕掛けがたくさんある。

 

こういうガジェットは見かけ倒しじゃなくて、この存在が社会にどう影響を与えていて、運営されているのか? というところがしっかり裏打ちされているのがきちんとSFで好きだ。たとえば、「発現」はなんでもできる万能の力に見えるが、結局のところこのヴォグ・ランバの世界では限定的に使用されるのみだ。かつては天才的な発現技師が戦争で大きな力を持つ存在であったが、合力の発見や重火器の発達で戦争での発現は廃れていき、科学技術も発現にとってかわり、結果として発現はインフラやバイオ分野など限定的な場面で限定的に使用されるものになっている。

 

そんなふうに世界観を脇から固めつつ、主題としては「ペインフリー」と、それに反対する「覚醒派」の対立という形をとる。ヴォグはガアタら覚醒派の仲間となり、ペインフリーを打ち倒す計画を練る。しかし、ペインフリー体制を打ち破るということは、世界の滅亡を回避したい、生存したいという意思と戦うことだった。なぜなら、ペインフリーは「世界が滅亡するよりかは、自由意志をなくす」ということを選んだものだったから。

 

ペインフリーは『ハーモニー』(伊藤計劃)に影響を受けていると作者もあとがきで書いていたが、そういえばWatchMeも大災厄後に病が蔓延した社会の反動として、過度の生命主義に陥ったのだった。同じように、この『勇者ヴォグ・ランバ』の世界でも、いつ核戦争が起きて世界が滅亡するかわからないという不安を抱えており、その破滅を回避するためにペインフリーを進めたのだった。

 

しかし覚醒派の戦いは、ただのゲリラ戦にはならないし、世界の滅亡に一人の人間のドラマを引き込むようなセカイ系にもならない。ペインフリー体制に打ち勝つために、「戦争のない世界」を構築しようとするのだ。

 

で、ここから面白くなってくる! というところで2巻へ。最終巻は2/23日発売。いやほんと、まじおもしろいんすよ!