白井弓子×上田早夕里トークショー「日本の夏、SFの夏」に行って来た(9/3追記アリ)
もうだいぶ経ってしまいましたが、2013年8月11日に阿佐ヶ谷ロフトAで開催された、
白井弓子×上田早夕里トークショー「日本の夏、SFの夏」
に行ってまいりました。上田早夕里氏によるレポートはこちら。
トークショー、すごく面白かった。大森望氏の司会で、あっというまに時間が経ってしまいました。上田早夕里氏の『WOMBS』の読みが深く、18ページに渡る分析メモができたとのこと。すげえ。
おまけでアルメア軍曹の浴衣姿と、海で遊ぶマナのポストカードと、ペーパーを貰いました! ちょううれしい!
当日出た話で、覚えてるところだけ箇条書き。
発言はメモだけなのでけっこううろ覚えです。( )内は、僕の所見です。
・「ファーストガンダムは土」(白井)
白井弓子氏がSFに触れたきっかけは、ファーストガンダムだった。そしてそれを土壌にしていろいろ生まれた……。しかし、「ファーストガンダムはSFじゃない」と当時の学校の人に言われた……と。そこで大森氏の、ガンダムSF論争というのがかつてあって……と言う話、上田氏も「私もSFじゃないって言われるんです」の話など。
(えっ、『華竜の宮』を書いてSF大賞も取ったのに、あれがSFじゃなくて何がSFだと……と思ったら、ちゃんとみんなに突っ込まれていました。「あれはSFじゃない」、つまり「SFの定義」というのは、昔からSFファンが続けている論争なのです。しかしこういう論争は思想を深める意味では有意義なこともあるけれど、たいていの場合は意欲を削ぐ結果になって何も生まない話……。「ガンダムがSFじゃない」って言われたことで、白井氏がSFを描いてなかったらと思うとぞっとするので、これはSFジャナイ! なんて話はやめとこーよ!)
・WOMBSの帯が、4巻でやっとSFをウリにしだした。(大森)
4巻の帯が、「母なる身を戦場に捧げる」と内容の確信に触れている。SFということも明記しだした。1〜3巻では、はっきりSFということは明言していなかった。
(厳密に言えば一応「母」ではないことにはなっているので、「母」でないけれども。「SFは売れない」ということで、映画や小説、漫画では「これはSFです」と書かないのがセオリーみたいになっていて、SFファンとしては結構心苦しい事態。なのでSFだとウリにしだしたのは、SFファンにとってうれしいのです。そうですよ!)
・妊娠はプライベートなものなので、パブリックなものにしたかった。(白井)
白井氏が妊娠中にあるテレビを見たときに、「妊婦を見ると突き飛ばしたくなる」と男性が発言して、その他の出演者(全員男性)も否定する人がいなかったことが、すごく心に残っていた。妊娠はプライベートなものなので、パブリックなものにしたかった。
(最近、一部で話題になっている「電車でベビーカーは非常識だ」という意見を思い浮かべました。僕個人的な意見として、ベビーカーが邪魔? いや、お前らも子供として生まれて来たんだろ。子供は決して奪うことのできない未来じゃないのかー! と思うのですけれども、まじで妊婦は迷惑だと思ってて、しかもそれをはっきりと明言しても社会的に受容されるということが、驚きと同時に深い失望を覚えます。「だから妊婦はあらゆる意味で守られなければいけない」というプライベートなところではなくて、「戦争という極限状態において、妊婦も駆り出されるならばどうなる?」というWOMBS。この視点に白井氏の信念を感じました。こういう風に、世界の状況を足し引きしてシュミレーションすることこと、SFの醍醐味ですよ!)
・登場人物の名前がすごい(上田)
主人公の名前は、マナ・オーガ。旧約聖書のマナ(神が天から降らせ民に与えた食物)を連想した。だが、オーガは化け物の名前で、いわば聖と悪が一つの名前で表されていて、マナ・オーガはただものじゃないな、と思った。
(白井氏はそこまで考えて名付けたかどうかはっきり明言しなかったです。けっこう重要な点かも。他にも「アルメア」「ケイ・シオタ」「ジェット」「ミミ」等、かっこいい名前多いですね。地球から移民して、多国籍ではあるけれど、黒髪のキャラには日系っぽい名前が付いてることから、それなりにルーツは生きてると推測されます)
・主人公が普通なのがすごい(上田)
軍隊ものの話は、登場人物がエキセントリックなことが多いが、マナは普通で、同じ班のみんなも普通。普通の人間の話が描きたかった。
(普通の人間で、平和な日常を過ごしていたからこそ、それが戦争という状況に巻き込まれていくことに、生々しさがあります。すごい才能を持って外からやってきたヒーローではなく、地に足を付けて生きていて、弱さも抱えながら戦う人間たちだというこに、WOMBSの価値があります。)
(マナは「開拓」に「故郷のイメージ」が必要ということも、祖国、ひいては個人的な故郷のために戦うという被侵略戦争の側の気持ちを体現しているのかも。)
(でもその「守るはずの故郷のイメージ」を使って「攻撃」しなくてはならないという悲哀があるのだけれど。)
(だんだん、自分が何のために戦ってるのかわからなくなる……というのも、実に面白い。)
・マナはみんなの母親役になっている。(上田)
まだ子どもを持っていないが、病弱な母の代わりに小さい弟の母親代わりになっている(ナビも弟の形を取って現れる)。軍隊の班でも、マリアが娘にベールを渡せないと嘆くときに、姉妹のならいいんだよと、自分のベールを渡す。
・ファーストもまた侵略者であり、イノセントではない。(上田)
植民星化するにあたって、ファーストは星を改造し、現地生物であるニーバスの生息圏を奪って来た。
(ニーバスにとっては、ファーストもセカンドも同じ侵略者。テラフォーミング、もっと言えば生きるだけでイノセントではないという事実。こういうの僕はすごく好きなんですが、あまり賛同を得られなかったので、今回、上田氏から、ここがいいんです! と話を聞いて、「そう、そうなんだよ!」とうれしくなりました。)
・ニーバスとコミュニケーションがとれているわけでない。
転送空間でニーバス器官が見せる幻影であるナビや、ワンピースを着た女性の姿をとって現れるニーバスのボスと「会話」するが、それが本当に意思疎通ができているのか、それとも人間の脳が会話を言語化しているのか区別ができない。
(『華竜の宮』の「アシスタント知性体」、『寄生獣』などを引き合いに出し、話をしていました。)
(僕はなるほど! と思ったけれど、SFに慣れてないと分かりづらい話かも……。たとえば、幻聴が聞こえたとして、実際は脳内で起きている現象にしか過ぎないけれども、本人にとってはリアルな声で、現実と幻想の区別を付けられない……というと分かりやすいかな。)
(「心があるのと、心があるように見えるのは区別できない」というチューリングテスト門外を思い浮かべました。)
上田早夕里氏によるレポートで、『WOMBS』を的確に言い表してる部分を引用します。
また、本作は、異文化・異生物との〈衝突と断絶〉の物語でもあります。それが、戦争という最も苛烈な形で噴出する構成になっています。ファーストから見ればセカンドは侵略者ですが、ニーバスから見ればファーストもセカンドと同じように侵略者です。そして、ファースト軍部内でも、同国人同士の〈衝突と断絶〉があります。主人公サイドの、この二重性、三重性(決して一方的な被害者ではない)は、物語に奥行きと深みを与えています。
この〈断絶の物語〉への希望があるとすれば、それはどういうものになるのか。もし、希望など何もないという結論に至るのだすれば、物語の果てに待ち受けるものは何なのか。何らかの光が置かれるはずという最終刊の発刊が、いまから待ち遠しくてたまりません。
白井氏と上田氏の共通点がいろいろ見られたのもよかったです。
お二人とも中間管理職燃えだとか、バイオ系SFが好きだとか、妊娠あるあるとかそういうところで通じるところがあって、聞いてるこっちまで熱くなってしまいました。
そうそう、あと月刊誌で新連載も予定しているそうです。超楽しみだ!
『WOMBS』は書き下ろしなので、来年までお目にかかれないけど、それまでに白井氏の他の作品が連載で読めると思うとうれしいです!
イベントは、終了後に設定資料のコピー展示と、『WOMBS』にサインをしてくれるというサービスがあったのですが、僕はそこで抜けてしまいました。いや、今になって思えば描いてもらえばよかった……。アルメア軍曹。
実際は、ここで書いた話はごく一部で、2時間半くらいいろんな話がありました。2013年の夏のいい思い出になりましたよー。
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おまけ
妊娠をパブリックなものにしている漫画、ということで、こちらもおすすめ。
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あれ、いまKindle版しかない?
現代社会で、男が妊娠したらどうなる? という世界を描いた良著。マストバイ。