2013年このSFマンガがすごい
どーも。ジン太です。2013年ももう終わりですね。
世のSF漫画全部……ではないですが、そこそこは読んでる身として、今年読んだSFまんがで面白かったものを独断と偏見で紹介します。
『成恵の世界』(丸川 トモヒロ)
- 作者: 丸川トモヒロ
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2013/02/21
- メディア: コミック
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Kindleあり。
学園SF。宇宙人。多世界解釈。
惑星日本からやってきた、宇宙人とのハーフである七瀬成恵と、平凡な地球人・飯塚和人のラブコメSF。
……かと思いきや、ウラシマ効果で年下のお姉ちゃんが出て来たり、宇宙戦艦同士の熱いバトルが出て来たり、多世界をかけた戦い、惑星合衆国のスパイなど惑星間同士の駆け引きがあって、強烈なキャラの個性と相まってすっごく熱いSFになっていた! で、13巻でばっちり幕引きしてくれました。
これ、kindleで一巻だけ買って、超おもしろかったのでまとめ買いして読みました。
機族が好きだなあ。「マップス」とか好きな人は無条件ではまるのではないかしら。「ケロロ軍曹」が好きな人も。
SF。もうとにかくSF。社会派でもあり、人文学でもあり、かといって舞台はばっちりハードなSFなのがたまりません。作者も「ハーモニー」と「虐殺器官」に影響を受けたとはっきり言ってるので、伊藤計劃のようなSFとはっきり言っていいかもしれません。
演算して物理的に力を及ぼす「演算」や、価値観の更新を止めて、悩みをなくしてしまう「ペインフリー」、そしてそのペインフリーと戦う「覚醒派」という、設定だけでしびれるのですが、なによりすごいのは、これとどう戦うかというところまで描いているところ。いわば、「ハーモニー」後の世界と、戦い方をシュミレーションしているところです。
『三文未来の家庭訪問』もすごくおもしろかった。
近未来、「生む男」という新しい性のリタが、団地の下の部屋の女の子と仲良くなる……というあらすじだけだとあれだけど、ここに注ぎ込まれたSF設定がさらりとすごく、世界を救うとかでかい話じゃなくて、女の子と仲良くなるだけどいう小さなドラマを描いているのがすごい。
作者が繰り返し描いてる、「普通でない環境に生まれ育った人間が、普通であろうと努力をする」という設定になぜかものすごく心打たれるんです。
『ニッケル・オデオン』(道満 晴明)
すべて8PのSF短編漫画。すこしSFで、奇想天外。それでいて短編漫画として完璧にまとまっている漫画。
緑のほうに収録されてる、「契約」、「遊星より愛をこめて」が好き。
「契約」は、悪魔を呼び出して、願い事を叶えてもらう悪魔召還ネタ。
悪魔曰く、対価に魂もいらない。ただし願い事はポイント制。三人で1000ポイントを仲良く分けて、それぞれ願い事を叶える。残り1ポイントになったところで、飛行機がこちらめがけて落ちてきて、このままだとみんな死ぬと悪魔から告げられて……。
設定もオチも、まるで星新一のショートショート読んでるみたいでした。
「遊星より愛をこめて」は、貴重なSF/BL。毎日、学校帰りに親友と公園に行く。体の弱い親友は、公園でいつも一休みをする。だがその公園も取り壊されることになる。そこで公園に遊星爆弾が落ちて来て……。
短いながらもぽろりと漏らす登場人物の本音や、何気ない表情から垣間見える表情にドラマがあってものすごくいい!
現在、【赤】と【緑】の二冊が発売されていて、どちらからでも読めます。
第一話試し読み↓ これは【赤】のほうに収録。
IKKI PARA 試し読み 【ニッケルオデオン/道満晴明】
『靴ずれ戦線』(速水螺旋人)
ロシア戦争SF。
第二次世界大戦時のロシアが舞台。徴兵された魔女ワーシェンカと、「非科学!」が口癖の現実的なナージャのコンビが、ロシアのあまたの妖怪・怪物や魔女と渡り合いながら、ドイツ軍と戦う……というお話。
かわいい絵柄で、妖怪たちもとってもかわいい。ところどころ出てくるヒゲ男がもさくてかわいいのも楽しいし、ロシア軍の細かい描写や、ロシア民話も楽しい。作者どんだけロシアが好きなんだ。
戦争なので、史実のとおり人はばんばん死ぬし、街も民家もどんどん破壊されていきます。かわいい絵柄ですが、ここは戦場で死は日常であって、ことさらに悲劇的に描かないのがこの漫画の魅力です。死んでしまっても「仕方がない」と幽霊が言ってしまいます。だからこそ、ラストのあのナージャのシーンはとってもよかった!
文字びっちりのコラムも見所。昔の日本人がそんなにお米食べてるなんて知らなかったヨー。
同じ作者の『大砲とスタンプ』は第一話が全部読める試し読みがありました。
大砲とスタンプ / 速水螺旋人 - モーニング公式サイト - モアイ
こっちは兵站兵のお話。架空の国で、架空の道具とか出てきて、こっちのほうがSFかもしれないなあ。兵站おもしろいです。
『ヒヤマケンタロウの妊娠』(坂井恵理)
ジェンダーSF。妊娠SF。
男も妊娠する世界を書いたお話。しかし、男が妊娠する確率は女の10分の1。この差が見事で、男が妊娠できるといっても、妊娠そのものに対する偏見や無理解は(少なくとも今の日本社会程度に)残っていて、ましてや男が妊娠するなんてめずらしい! という社会。
主人公のヒヤマケンタロウはできるサラリーマンだったのですが、妊娠をきっかけに、妊娠や育児について考え、周りを巻き込んでビジネスを立ち上げ社会を変えて行きます。
男が妊娠するというだけだったら、それほど珍しくもない(BLではわりとあります)のだけれど、「妊娠するのが男だったら?」という「もしも」をこの社会に代入し、妊娠に対する偏見を浮き彫りにして、さらにその偏見にどう向き合うか? という一つの解まで提示したことが、すっごくSF的だし、有意義であると思います。
これ、発売当初にTwitterですすめたら、かなりの人が買って読んでくれて、「おもしろい!」と言ってくれたのがよかった。友達が言ってたけど、主人公はあくまで男社会の中にいる、がっつり男ジェンダーなのですね。「これを機にビジネスにしよう!」と、男としての社会的な強さも武器にしちゃうような。
とはいえ、男ジェンダーの社会的強者だけでなく、男ジェンダーゆえに妊娠してしまって「男のくせに……妊娠なんかして恥ずかしい。怖い」と落ち込んでいる妊夫にもスポットをあてているのがバランスがとれていてすばらしい。高校生のカップルのエピソードもよかった。
ラストが希望があってよかったです。現代社会に対する痛烈な皮肉ですらある。ジェンダー方面はもちろん、SF方面でももっとがっつり語られてほしい漫画ですねえ。
『メイドインアビス』(つくしあきひと)
秘境探索SF。
大穴「アビス」には、さまざまな奇怪な生き物が生息しており、その中にはお宝が眠っている。孤児のリコ(眼鏡少女)は、アビス探索中に少年型のロボットを拾う。そのロボットは記憶をなくしていた。リコはロボットにレグと名付け、一緒に孤児院で生活をすることに。あるとき、アビス探索中に死んだはずのリコの母親からの手紙が届いて……。
登場人物がとにかくショタかわいい。ふにふにした体と、緻密な背景がたまんないっすね! 孤児院での仲間たちとのやりとりもかわいいです。特に抜けてるくせになぜか自信たっぷりなリーダーシップを発揮するリコと、慣れない人間生活でおたおたするレグがたまりません。
「アビス」には「アビスの呪い」があって、下に降りれば降りるほど重くなります。「アビス」は降りる分には大丈夫なのですが(それでも怪物とかいて危険ではある)、地上に登ると体に支障を来たし、ある地点から地上に登ると死に至る(つまり二度と元の世界に帰れない)。少年少女にはシビアっすねー。黄泉の国みたいだ。
「縦方向の移動」って、なぜか読者の感動を誘うものがあるらしく、映画でも漫画でも少年が飛んだり、少女が落ちてきたりするんですが、少年少女が手を携えて深く深く降りて行く「メイドインアビス」も同じ感じがしますね。最終的に「行きて帰りし物語」だといいなあ……。
試し読み。
メイドインアビス / つくしあきひと / まんがライフWIN
『WOMBS』(白井弓子)
ジェンダーSF。妊娠SF。戦争SF。
部隊は地球から遥か離れた植民星。長きに渡る開墾のすえ、ようやく人類はその地に文明を広げたが、遅れてやってきた人類が、曰く「正当な権利」を主張し、戦争を吹っかけてきたのだった。
そうして第一移民「ファースト」と、第二移民「セカンド」の戦争が起こり、20年。圧倒的不利にある「ファースト」だったが、唯一「セカンド」に勝っている点があった。「転送隊」通称「WOMBS」と呼ばれる、同一重力間転送を行える技術を持った部隊の存在だ。
「転送隊」は、現地生物である「ニーバス」の子を子宮に宿すことでこの力を得る。
マナ・オーガは、新兵ながら転送ポイントを作る「開拓者」の才能に目覚め、「セカンド」の首都攻撃のためにその力を発揮する。だが、自分の故郷がセカンドの侵略を受けていることを知ったマナは、徐々に疲弊し、ついには倒れるのだった……。
というところが四巻までのあらすじ。
それまで謎だった「セカンド」の実態もじょじょに見えてきましたし、いままで訓練と兵站輸送が主任務だった「転送隊」がみな前線に駆り出されることになり、話がいっきに動き出しました。
「セカンド」の無人の新都市で、自らが破壊した子供の遊具を見て固まるところや、「限りある資源と人材を使い果たした後はどうする?」と問われて、「セカンド」の人形が「次へ」と告げるところが好きです!
「セカンド 」のプロバガンダがひねくれてていいですね。自分たちは人類であり正規移民である。「ファースト」は不法移民であり、降参しなければあなたたちは準現地生物のカテゴライズからも外れる。と主張していて、正義が不在になり思想戦になった戦争って感じで好きです。でも、「ファースト」が絶対正義かというとそんなこともなく、現地生物である「ニーバス」の生息圏も奪っており、あまつさえその身に宿し、戦争の道具にしているという。誰もイノセントでない感じ、すごくいいですねー!
試し読み
Kindle版もあり。
これは……なんて言ったらいいんだろう。市川春子SF?
隕石が落ちて生物のほとんどが滅び、微細生物の働きで宝石に体が置き換わった。そしてその宝石を装飾品にしようと襲ってくる月人。
主人公のフォスフォフィライトは、弱くもろい。戦闘にも参加できず、仕事もできないフォスフォフィライトは、博物誌を編むように命じられる……。
市川春子氏のこれまでの漫画の例に漏れず、人体欠損と、人間であって人間でないもの。そしてあいまいな性が楽しめます。
とにかく絵も指先まで表現がすばらしいですね! それにいちいちエロいと思う……宝石同士触れたら壊れるって設定とか、いちいち肉体欠損するところに猛烈なフェチズムを感じる。
自分のことを「ボク」だったり「私」だったり、性別が不詳というか、ジェンダーが曖昧なところも好みです。
「月人」は仏像画のように、平面的に現れるところとか、漫画的にもとても面白い構図ですねー。
試し読み
宝石の国/市川春子 - モーニング・アフタヌーン・イブニング合同Webコミックサイト モアイ
『エンチャント・ランド』(富沢ひとし)
学園SF、超能力SF。
ぼくらの富沢ひとしがやってきたぞ!
女子高生の青葉は、テレポート能力を持っている。飛び込み部復活のために、校長先生の孫と組むことになり、怪しい部活動たちが巻き起こす事件に対峙することに……。
テレポート能力の表現がとにかくすごい。
五円玉を中心として、世界を平面にして、巻き取るというもの。
つまり、三次元を二次元に折り畳んで、その二次元上を動く→三次元に戻したときに、瞬間移動している。というわけ。
漫画としての表現の説得力もだけれど、テレポートの表現としても理にかなっている。
というのも、四次元から見たら三次元は平面のように見えるわけで、たとえるなら、地図の上を歩き回るハエは、地図上の平面の世界から見たらただの点にしか見えない。ハエは自由に地図の上を歩き回って、地図上のどの場所にも現れることができるわけだけど、地図上の世界から見たら「突然現れたぞ!」となるわけです。(この説明で合ってるかな……)
状況説明を排して、変な敵がいっぱい出て来て、主人公がとにかく悲惨な目に遭う富沢ひとし氏のSFまんが。単行本化が楽しみだなー。
2013年12月現在、未単行本化なのですが、いまのところこちらから全部読めます。
エンチャントランド|画楽ノ杜 supported by Manga Planet(マンガプラネット)
あと現在『ゆめにっき』のコミカライズもweb連載中で、こっちはグロいはなんだかねちょねちょしてるわで、相変わらず不穏。最新話でとうとう包丁が出てきたぞ!
ゆめにっき / 漫画:富沢ひとし/原案:マチゲリータ/原作:ききやま / まんがライフWIN
『ひきだしにテラリウム』(九井諒子)
Kindle版もあり。
ショートショート。SFやファンタジー、コメディに昔話風のお話が33編収録されています。
こうだったらどうだろう? という発想を膨らませ、漫画の絵柄とコマで世界をつくる。漫画ってすごい! と素直に思える傑作です。
好きな話は下の試し読みでも読める「ショートショートの主人公」と、「遠き理想郷」。想像力って無限大だー。
試し読み。4編が読めます。
『ぼおるぺん古事記』(こうの 史代)
神話SF。というか神話そのままですが。
古事記を物語にした漫画。ボールペンで描いた絵がすごい! 細かい!
それと、注釈がすごく面白い。ものすごくたくさんいる神のデザインが楽しいです。
試し読み。
まだまだ半分のような気もしますが、ざっとこのあたりかなー。読み残したものもいっぱいある気がする……。来年はどんな漫画が読めるか今から楽しみです。