『夏休みのあいだ』あとがきにかえて
2014年7月6日にリリースした、『夏休みのあいだ』
表紙は、たかさきけいいちさんに描いてもらいました。
たかさきさんの漫画を初めて読んだのは、爆男(ばくだん)という、ゲイ漫画アンソロジーでした。ゲイ漫画は基本は筋肉!エロ!なものが主流なのですが、たかさきさんの漫画は、ちょっとその主流から外れた、登場人物たちの繊細な内面をその漫画に込めていて、いっぺんに好きになりました。
で、Twitterで繋がって、漫画や作品の趣味が結構合っていることがわかり(僕もたかさきさんも藤子・F・不二雄先生が好きです)イベントの売り子をしたりして仲良くなり、今回表紙をお願いしました。
表紙イラスト、すっごく予想通りというか、僕が思ってた以上に僕の作品の登場人物たちで、本当にうれしかった!
メインの「夏休みのあいだ」の二人の少年は、中学二年生なんですが、中学生特有の儚げな感じを出してもらえてとてもうれしかった! 表情がすごくいい。本文の迷っている男の子の感じを十二分に引き出してくれて、もうほんとよかったです。
デザインは、加藤悠二くんにお願いしました。
加藤くんとは、加藤くんが企画した「SF3」っていうセーファーセックスアンソロジーでコンドーム擬人化話を書いたのと(売り切れ中。このアンソロの続刊にあたる、「IT'S OK」も品切れっぽい)
文フリで販売した同人誌『SUMMER CAMP vol.5』で文字組とロゴを頼んだりして、仕事ぶりを知っているのもあって頼みました。
ばっちりジュブナイルっぽく(ちょっとパロも入れて)やってくれました。良い仕事するなー加藤くん。
さて本作『夏休みのあいだ』。
僕はもともと「少年と夏」というテーマで『SUMMER CAMP』っていうアンソロジーを晋太郎くんたちとやってて、そのVol.1で書いたのが表題作の「夏休みのあいだ」でした。
夏休み、少年が図書館で小学校の友達と出会って、AIをつくる。AIは感情をつくるために人間の記憶を集めている。少年たちは二人で「夏休みの記憶」をつくるために一緒に過ごす……
というお話です。Kindle版に収録にあたり、お父さんお母さんと話をしてバスに乗り込むシーンとか、あとちょこちょこ加筆・修正しました。
あとがきなので個人的な話をしますが、「バスに乗れなかった夢」は中高生のころよく見ていました。大人になった今では、なんで夢の中でも乗れなかったんだろう、と思うのですが、自分にとっては誰もそんなこと教えてくれなかったし、自分でもそうできないだけの理由があったんだなー、と、書いていてぼんやりと思い出したりしましたよ。
「ビニール傘と里山くん」
ビニール傘で空を飛ぶ世界で、まだ仲良くなったばかりのクラスメイトと深夜に飛ぶ話。
これは、生まれて初めて書いた小説らしい小説かもしれない……。
Twitterでばばっと勢いで書いたんだけど、思ったより好評なリアクションをもらい(ただしフォロワーも10人減った)、気が大きくなった作品です。収録にあたり、ちょこちょこ加筆しました。主に描写のところを。
「コピーは空の夢を見る」
書き下ろし。
これはいろいろ元ネタがあるのですが、「ダブル/ダブル」という、白水社から出てるもうひとりの自分を書いた作品を集めた海外小説のアンソロジーと、藤子・F・不二雄先生のコピーが出てくる話と、「勇者ヴォグ・ランバ」の作中の中でけっこう重要な技術の「コピー」です。
もう一人の自分が増えるということと、その場合にセクシュアリティがどう変化するのかに興味があります。
ゲイの友達のあいだでは、半ば冗談みたいに、「もし自分があのとき、○○と出会ってなかったら・告白されなかったら・ふざけてエッチなことされなかったら 今はゲイじゃなかったと思う」と話しが出ることがあって、そういう話をする人はだいたい3割くらいの確率で「そうじゃなかったら、いま俺はまだノンケ(異性愛者)のままで、結婚したり子供もいたんだろうな」と続きます。
僕は小さい頃から男の子が好きだったので、そういう「もし〜だったら」を考えるような時期は高校生くらいで終わったのですが、自分が小さい頃から男の子が好きなタイプのゲイじゃなくて、女の子が好きだけど男の子に告白されたらゲイになってしまうようなタイプだったらどうなるだろう? そんなふうな思想実験からこの話は始まりました。
結局のところ、ゲイと、そうではない指向の人間が分かり合えるかどうかというのは、この作品を書いてもはっきりしない……というか、僕ははっきりと「分かり合えるわけがない!」と思ってるのですが、それでも、分かり合えた一瞬の奇跡のようなものはあると信じたいです。
ラストで一歩踏み出した「ぼく」は、そんな希望の象徴でもあります。
「図書室のクマ」
書き下ろし。リライトのつもりが、結局違う話になってしまった……。
「SUMMER CAMP vol.3」の、「I See You」という短編を下敷きにしています。
共通項は、オグラ(Augmented Reality Glass)という、拡張現実を見るためのメガネ(早い話が「電脳メガネ」です)が普及した世界で、図書室にリファランス用のクマ型AIがいる、ということで、あとはまったく変えました。
いやー。本ってすごくいいですよね。
書くのものすごく時間がかかってしまったけれど、この作品がいちばん好きだと言ってくれる人がいてうれしかったです。
あと、たかさきさんが書いてくれたクマかわいい。
ちなみに、この話は、未来なので同性愛は当たり前になっている、という設定です。
未来の話で、(人口を増やすために男女間の結婚が強化され、同性愛は迫害された)とかいう前フリなしに、ふつうに今のジェンダー感をひきづってると、ちょっとひっかかりますよね。作風にもよるけれども。
次作はまたいつになるかわかりませんが、書き溜めていきたいと思いますー。
とりあえず今はたかさきさんと合同で出す本の原稿!
ではまた。
- 作者: マイケルリチャードソン,Michael Richardson,柴田元幸,菅原克也
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1994/09
- メディア: 新書
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